ファッション史
服の形が変わるとき、身体の自由や性別の規範も一緒に動いていたことが分かる並びになる。それを伝えた図版そのものも含まれている。
辞書情報
- ファッションプレート 1770s–1930s / 技法
手彩色の版画で最新流行を定期的に届けた図版メディアで、雑誌・イラストレーション・スタイル画の原型になった。
- ダンディズム 1790s– / スタイル
装飾ではなく仕立て・清潔・抑制で自己を作品化する男性服の美学で、簡素なスーツの原型と「装いによる自己主張」の系譜を生んだ。
- 合理服運動 1850s–1900s / スタイル
コルセットと長い裾を否定し、健康と運動の自由から衣服を設計し直した改革運動で、機能主義デザインの服飾版にあたる。
- フラッパー 1920s / スタイル
直線的なシルエット・短い裾・ボブヘアで身体の解放を可視化した1920年代の女性像で、アール・デコの幾何学と同じ時代精神を着た。
- 銘仙 1900s–1950s / スタイル
安価な絣技法に大胆な抽象柄と化学染料の鮮色を載せた大衆着物で、アール・デコや前衛絵画を日常着へ翻訳した日本のモダニズムだった。
- ニュールック 1947–1950s / スタイル
絞ったウエストと大量の布を使う長い裾で戦時の実用服から一転した曲線を復活させ、戦後のオートクチュールの黄金期を開いた。
- アイビー・スタイル 1950s– / スタイル
アメリカ東部名門大学の実用的な紳士服体系で、ボタンダウンとブレザーの「崩した端正さ」が日本経由で世界のトラッドの規範になった。
- スペースエイジ・ファッション 1960s / スタイル
宇宙開発の楽観を素材実験に翻訳し、金属・プラスチック・幾何学カットで身体を未来の造形物として提示した1960年代クチュールの前衛。
- ブラック・ダンディズム 18th century– / スタイル
仕立てた服と所作を自己形成の手段にし、人種化された見られ方を自ら編集し返す装いの系譜。華美か抑制かという一つの見た目ではなく、規範を熟知した上で細部をずらし、尊厳、抵抗、アイデンティティを同時に表す。
- パワー・ドレッシング 1970s–1980s / スタイル
職場の権威を服で可視化する装いで、1980年代には大きな肩を持つ鋭いスーツが、上昇志向の男女の記号になった。体を大きく、輪郭を硬く見せる一方、既存の組織規範へ同化する力も持つ。
- ファッションの脱構築 1980s– / スタイル
服を完成した一体物として隠すのではなく、縫い代、裏地、断ち端、型紙、非対称な接合を表へ出し、衣服を成り立たせる規則そのものを問い直す。破壊の演出ではなく、分解した構成要素から別の身体像を組み直す。
- キャンプ・ファッション 19th century– / スタイル
人工性、誇張、演劇性、パロディ、過剰を愛し、良い趣味と悪い趣味の境を楽しむ装いの感性。単なる派手さではなく、真面目さが大きくなりすぎて笑いと批評へ反転するところに力がある。
- スポーツウェア・ファッション late 19th century– / スタイル
競技や運動のための可動性・保護・新素材が日常服へ入り、逆に流行の形が競技服へ戻っていく系譜。分割スカートから伸縮素材、ナイロン、ネオプレンまで、身体を動かす機能が現代のカジュアル服の輪郭を作った。
- グラムロック・ファッション 1971–1975 / スタイル
1970年代初頭の英国ロックが、きらめき、厚底、強い化粧、身体に沿う服、SFとキャバレーの引用で、演者を日常から切り離された人工的なスターへ作り替えた装い。
- ウェスタン・ウェア 19th century– / スタイル
牧畜と乗馬の実用品から、ロデオ、映画、カントリー音楽の舞台服へ発展した西部服飾。ヨーク、スナップ、ブーツ、帽子という機能形に、刺繍、フリンジ、スタッズ、強い配色が加わる。
- ピーコック・レボリューション mid-1960s–early 1970s / スタイル
戦後の男性服を暗い背広から解放し、細身の仕立て、鮮色、ベルベット、フリル、花柄を若い男性の日常と舞台へ広げた1960年代の変化。現代的なダンディズムが性別と階級の服装規範を揺らした。
- オプ・アート・ファッション 1964–late 1960s / スタイル
オプ・アートの反復線、強い白黒対比、知覚的な揺れを、直線的なミニドレス、ニット、紙衣料へ移した1960年代の服飾表現。身体が動くたび、平面模様そのものが膨張、振動、回転して見える。
- アフロフューチャリスト・ファッション 1950s– / スタイル
黒人の歴史、主体性、解放を、宇宙、技術、神話、音楽、舞台衣装を通して未来へ再構成するアフロフューチャリズムの服飾表現。既存のSFから黒人が除外されてきた歴史へ、誰が未来にいるかを身体像で答える。
- ボーホー・シック early 2000s–present / スタイル
1960〜70年代のヒッピーやボヘミアンの装いを、2000年代のセレブ、音楽フェス、ハイストリートが、計算された無造作さへ再編集したファッション様式。流れる布、重ね着、低い腰位置、使い込んだ革、編みや刺繍を、都会的な一着と混ぜる。
- クリノリン・シルエット mid-1850s–late 1860s / スタイル
布やテープで連結した同心円状の鋼輪をスカート下へ置き、腰から裾まで全周を鐘形またはドーム形に広げる19世紀中葉のシルエット体系。重い重ねペチコートに代わる量産構造が、衣服の外形と人が占める空間を同時に変えた。
- バッスル・シルエット late 1860s–mid-1880s / スタイル
腰の後ろにパッド、馬毛、籠、鋼ばねなどを置き、スカートの量と装飾を背面へ集中させる19世紀後半のシルエット体系。前面と脇を細くし、後方の張り出し、垂れ布、トレーンを段階的に見せる。
- パニエ・シルエット late 17th–late 18th century / スタイル
腰の左右へ籠状の支持体を吊り、前後を平らに保ちながら横幅だけを大きく広げる18世紀のシルエット体系。宮廷服やrobe à la françaiseの織柄、装飾、身振りを、正面から読める広い水平面へ展開した。
- スパニッシュ・ファージンゲール late 15th–early 17th century / スタイル
裾へ向かって大きくなる輪をスカートへ組み込み、腰から床まで硬い円錐・三角形を作るスペイン起源の宮廷服シルエット。布の皺を抑え、直立する胴、狭い腰、広い裾を一続きの幾何へ固定する。
- ローブ・ア・ラ・フランセーズ 1730s–1770s / スタイル
身体へ沿う前身頃、三角形のstomacher、開いたスカート、肩から床へ途切れず落ちる二本の箱襞を組み合わせた18世紀のドレス様式。Pannierの横幅と絹の面を使い、正面の装飾と背面の長い流れを別々に読ませる。
- スラッシング装飾 late 15th–17th century / revivals / 技法
衣服、帽子、靴の表層へ規則的な切れ目を入れ、下地、裏地、詰め布を見せる装飾技法。切り口の形、間隔、方向と、下から現れる対照色を組み合わせ、表面を破壊せず二層のリズムへ変える。
- 80年代ワークアウト・スタイル late 1970s–1980s / スタイル
エアロビクスと家庭用フィットネス映像の普及が、レオタード、レギンス、レッグウォーマー、ハイカット靴を蛍光色の重ね着へまとめた1980年代の運動服。身体の動きを見せる高い腰線と色面の分割が、街着と広告にも広がった。
- アクビ late 2010s–2020s / スタイル
韓国のオンライン小売とGen Zの着こなしから広がった、細身のY2Kシルエットを灰、黒、白の低彩度へ抑えたレイヤード。短いトップス、透ける長袖、ローライズ、非対称な切替を、ロゴや装飾を減らして身体周辺の線へ集中させる。
- トゥイー・スタイル mid-2000s–early 2010s / revival / スタイル
インディーポップ、古着、手作り感を、Peter Pan collar、Aライン、カラータイツ、ローファー、前髪、アナログ小物へまとめた2000年代の甘く知的な装い。Whimsy Tweeなどの復興名も、この既存文法の変奏として扱う。
- バッファロー・スタイル 1983–1989 / スタイル
1980年代ロンドンでRay Petriを中心とするBuffalo集団が、スポーツウェア、仕立服、軍放出品、ストリートの服を一つのファッション像へ再編集したスタイリング。ブランド一式ではなく、異なる出自の服と実在感のあるキャスティングを関係づけ、男性性や高級/日常の境界を揺らした。